春先の季節になると、お婆さん家で食べたサメ肉の味を思い出す。
ワシはコロナ禍になる前まで、隣町のお婆さん家に、しょっちゅう遊びに行っていた。
叔父さんが居ると、キャッチボールをする。たまに二人で近所を散歩して、虫取りしながら探検する。
叔父さんが居ないと、へこむ。さすがに、高齢のお婆さんにはキャッチボールは過酷な営みである。か細い腕が折れてしまうかも知れん。
肝心の叔父さんが居なくては、やることもないため、家にある菓子や惣菜を食べ漁るようになっていた。
ある日、いつものように、お婆さん家の冷蔵庫を漁っていたところ、珍しいものがあった。
サメの肉である。
今まで食べたことがないもんだから、ワシは食べたいと言った。
そのまま食べようとしたが、生食いはダメだと制止され、お婆さんが煮てくれた。
味は、というと。
すごく美味というわけではないが、途方もなく「普通の魚の味」であった。
ただ、それは妙に中毒性のある味で、それからワシはサメ肉が大好物になった。
ワシが気に入ったのをみて、お婆さん、普段からワシの為にサメ肉をたくさん買うようになった。
ワシは、サメ肉のために、お婆さん家に通うようになった。
コロナ禍になってから、お婆さん家に行くことを控えるようになった。
そこで、サメ肉を求めて地元のスーパーに行ったものの、なかなかお目当てのサメ肉は売っておらず。
また食べたいもんである。
サメは種類も多く、食用のものも多いはずである。
もっと流通すればいいのにと思う。
寿司屋で気楽にサメを食べられる日を、心待ちにしている。
語郎