有給医のライフハック記録

医師の語る人生最適化戦略

病気の因果律。感染 ≠ 感染症。

 

・コロナ関連の基本用語の混乱

先日、仲のいい友人と、電話で近況を報告しあっていた。普通に元気で過ごしているようで、安心した。案の定、新型コロナウイルスについての話になった。友人曰く、「新型コロナとか、COVIDとか、単語が良く分からない」との話だった。

 

また他の知人に話してみても、そこら辺の基本タームについての理解が、いまひとつであることが分かった。とくに「感染症」と「感染」の概念が、すっぽ抜けている様子だった。良い機会なので、すこし記録する。

 

 

 

因果律

感染などの概念の記録のまえに、一般的な話題を差しはさみたい。この世の事象は、原因と結果がセットになっていることが多い。病気に関しても、同様である。

 

病気の原因 ⇒ 制御メカニズム起動 ⇒ 病勢が制御不能 ⇒ 結果としての症状

このような流れがある。病気を詳しく理解するには欠かせない基本モデルである。ここで重要なのは、原因に暴露されてから、症状の発現まで、タイムラグが発生しうる点だ。

 

具体例を挙げる。例えば、胃癌などで、どうだろうか。一粒の胃癌細胞が最初に発生しても、直ちに症状(吐血や胃痛、体重減少など)は現れない。胃癌細胞が増殖するスピードを制御機能がコントロールできず、癌細胞は無際限に増殖してしまう。群となってから、吐血などの症状が出現することになる。

 

ちょっと余談だが、白血病に関しては、症状が出現するまでに、だいたい握りこぶし程度の白血病細胞が、血液のなかに浮かんでいるという。症状が出るまでのタイムラグがお分かりいただけるだろう。

 

ただ、タイムラグが短い疾患もある。たとえば、くも膜下出血などの急性期の疾患である。血管が破綻したため出血するのだが、頭の中の狭い空間なので症状が急速に出現する。ただこの場合でも、やはり原因(血管の破綻)と結果(頭痛、意識消失)に因果律はある。

 

 

 

・感染 ≠ 感染症

感染症一般についても、因果律の基本が、当てはまる。

 

病気の原因 ⇒ 制御メカニズム起動 ⇒ 病勢が制御不能 ⇒ 結果としての症状

感染症一般に関しては、

・病気の原因:ウイルス、細菌、真菌、寄生虫を含む病原体

・制御メカニズム:免疫機構

・結果としての症状:発熱、倦怠感、嘔吐、下痢などの症状

と対応して考えることができる。

 

ここからが、極めて重要な概念なのだ。病原体が人体に侵入して増殖することを「感染」と呼ぶ。上でいえば、人体の免疫メカニズムとせめぎ合っているフェーズである。

 

それに対して、病原体により具体的な症状を呈した状態を「感染症」の発症と定義する

 

最初の友人の話では、このあたりが混沌としている様子だった。

新型コロナウイルスSARSCoV-2:ウイルス名であり、病原体をさす。

・COVID-19:上記の病原体によって引き起こされる「感染症」。

・潜伏期間:感染してから「感染症」を発症するまでの期間。タイムラグ。

 

タイムラグの話も、感染症について同様に当てはまる。病原体の増殖と、症状の出現には、どうしても時間差が出てくる。この感染してから発症するまでの期間を潜伏期間という。「感染してから発症まで、時間差があるみたいです」とメディアが当初伝えていたが、これは当たり前である。極端にそれが短い病原体以外には、潜伏期間があるのが普通だ。

 

正しく用語を定義しなければ、正確な議論の土台にあがれない。単語の使い分けには、今後も注意しようと痛感した次第である。

 

 

語郎