ひさしぶりの医学ネタ
ここのところ、感染症といえば新型コロナウイルスの話ばかりです。世間的にも注目のウイルスかも知れませんが、まだまだ世の中には得体の知れない感染症があります。前にも記録したように、寄生虫の「芽殖孤虫」なんかは代表的です。(以前の記事をリンクに貼っておきます。)
自分、昆虫好きということもあって、寄生虫が大好きで興味深々なのです。
寄生虫関係で進展した話題があるのかどうか、ネットで探っていたところ、2021年5月末に慈恵医大・宮崎大学・国立科学博物館が中心となった「芽殖孤虫」の研究成果発表がありました。大変興味深いので、こちらもリンクを貼らせていただきます。
芽殖孤虫とは・・・
以前の記事に、簡単に要約してありますが、飛ぶのが面倒な人向けに要約します。
発病経路が、今もって全く不明の寄生虫疾患です。世界でも、今までで18例の報告しかないほどの奇妙な寄生虫感染症です。
「孤虫」というのは、成虫の状態が不明な寄生虫に対して用いられます。人間の体内で幼虫は暴れまわりますが、肝心の成虫段階が不明なのですよね。ここらへんの詳しい用語は「幼虫移行症」として、前の記事で紹介していますので、そちらを見て下さい。
「芽殖」というのは、どんどん増殖する幼虫をイメージされてつけられたものです。
根本的な治療法がなく、外科的に体内の幼虫を摘出するしかありません。一部の幼虫を摘出したところで、完全に取り切れるわけではありません。次第に感染者は消耗し、残念ですが亡くなる経過をとります。
今回の研究成果の報道
ここからが本題で。
個人的には、とても興味深い発表でした。 芽殖孤虫の全ゲノム(遺伝情報)の解析に成功した、という話です。いまの時代は癌にせよ免疫疾患にせよ、生化学的手法で病気の本態を探ろうとします。この正体不明の寄生虫に対してもゲノム解析で挑んた、ということですね。
噛み砕いてまとめます。なお、リンク先の記事でも紹介されていますので、詳しく知りたい人はそちらも見て下さい。
新事実① マンソン裂頭条虫(似ている寄生虫)とは別モノ
謎の多い芽殖孤虫ですから、 なかには「既知の寄生虫が、バグって生まれたんじゃないのか」って考える研究者もいらっしゃったみたいです。
芽殖孤虫ほど悪性度は高くない寄生虫症に、マンソン裂頭条虫症があります。そちらとの相関を調べたらしいのですが、結果は「近縁ではあるが全くの別モノ」との解析結果だそうです。
「既知の寄生虫がバグって生まれた」説は否定されてしまいました。芽殖孤虫は芽殖孤虫なのです。
新事実② 成虫段階がガチで存在しない可能性
成虫が「見つかっていない」という点が芽殖孤虫のアイデンティティーでした。しかし、ここにきて事情が変わってきました。
生殖や神経の分化に関する組織の遺伝子発現が、著しく落ちているそうです。つまり「成虫になることを前提としていない生物」の可能性が高くなりました。言い換えると、そもそも成虫が「存在しない」可能性が高いというわけです。
寄生虫といえども、一般的には成虫になって卵を産んで、子孫を作るんですよね。そういった「有性生殖を通じた生命体の営み」が根本的に食い違っている可能性が浮上してきたのです。
本当に不思議なことです。
新事実③ 病原性を発揮するタンパク質を発現する
芽殖孤虫の増殖に関連すると考えられる、分泌タンパク質が明らかになってきました。人への病原性とも相関すると考えられています。治療薬開発が一歩進みそうな予感です。
感想
芽殖孤虫は寄生虫という枠をこえて、生命の根源に迫る存在なんじゃないかな、って思っています。おおげさかもですが。
ものすごいロマンを感じてしまうんですよね。
リンク
語郎