日本人なら知っておきたい寄生虫
「芽殖孤虫」とか寄生虫関係のキーワードのアクセス流入が、当ブログで多いんですよね。実際のところ感染症としての寄生虫に興味のある人って、ニッチだけど多いのかもしれないですね。新型コロナのパンデミック中ということもあるでしょうけど。
ぶっちゃけた話、衛生環境の良い現代日本では、かつての寄生虫症は駆逐されております。「いまさら学ぶ意義があるのか?」って話ですが、この記事にまとめる寄生虫については日本人の教養として是非知っておいても良いと思うのです。
「地方病」の脅威
江戸時代に遡るほど古くから、山梨県の甲府盆地一帯で「地方病」と呼ばれ恐れられていた風土病がありました。 原因が全く不明であり、村人としては手の施しようがない病気だったんですよね。
症状
・お腹が膨れる。
・黄疸が出る。
・貧血になる。
・最終的には栄養失調で衰弱死する。
これらの特徴的な症状から、古くは「水腫腸満」と呼ばれて伝承されてきました。
発病者の特徴
発病する人にも奇妙な特徴がありました。水田での農作業に従事している、働き盛りの方に集中していました。 水田の作業に従事していない人は、なぜか発症しません。
原因解明の開始
似たような境遇の方が、似たような症状を呈して亡くなる。科学的調査が入らなかった当時は、「村の住人の運命だ・・・」とあきらめ嘆いていたのです。
しかし日清戦争の時代に差しかかり、いよいよ軍医による調査が入るんですよね。地方病で命を落とさないとしても、地域には栄養不良の方が目立っていたので、国としても無視は出来なくなったのです。戦争は体力勝負なので、原因不明の栄養失調なんて困るわけです。
まず「地域の水質が悪い!」として、水を調べるも目立った異常はなく。作物や土も問題なさそう。そこで患者の糞便を検査したところ、寄生虫の虫卵が見つかりました。ここにきて「寄生虫による感染症なんじゃないか」とアタリがつくようになります。
正体の特定 → 感染経路の特定へ
卵が見つかったとしても、寄生虫の成虫に迫れたわけではありません。地方病で亡くなった方の解剖と、地方病に感染したと思われるネコの解剖を経て、「どうやら哺乳類全般に寄生して、成虫になるっぽい」と分かりはじめるのです。こうして新種の寄生虫が特定され、日本住血吸虫と名付けられました。
そして地方病を発病する人は、(前述のとおり)水田での作業をしていることが多かったという事実。また彼らの皮膚の特徴的な「かぶれ」があることを踏まえて、「水田などの泥水から、皮膚を通じて寄生虫の幼虫に感染するらしい」というところまで分かったのです。
詳細なメカニズム
解剖と地道な検証を経て、日本住血吸虫の詳細が分かってきたのです。
生活リズム
そもそもの生活サイクルが、ちょっと複雑なんですよね。
卵から孵って幼虫になっても、その時点では人間に感染できません。人間への感染能力を発揮するまえに、いちど巻貝(ミヤイリガイ)に感染するのです。巻貝のなかで成熟して、はじめて感染能力を得るんですよね。
発病
体内に侵入した寄生虫は、好んで肝臓とか栄養がリッチな血管に住みつきます。血管のなかで赤血球を食べるんですよね。ガチで口をあけて、パクパクたべます。そりゃ栄養失調にもなりますし、貧血にもなるわけです。
迷惑なことに、成虫は人間の体内で卵を産みつけます。それが肝臓やら血管につまり、「肝硬変」になるんですよね。肝臓やら血管に異物があるので、血の流れが悪くなり、変な圧力のせいで血管から水分が漏れます。漏れた水分が腹に貯まり、お腹が膨れていたんですよね。
対策
農民の方の懸命な努力もあって、ミヤイリガイを駆除することに成功したんですよね。また水田の水流を良くし、水のよどみを減らすことにも成功。結果的にミヤイリガイが減るので、日本住血吸虫も激減したのです。
※日本で見つかったワケであって、日本から世界に広まった訳ではありません。もとから日本住血吸虫は東南アジアに広く分布しています。 また甲府盆地だけでなく、広島県にも有名な流行地がありました。
新型コロナと被る光景
当時の農家の人たちだって、そりゃ感染なんてしたくないし、治療代だって安くない。しっかり休んで田んぼの管理もしたいけれど、農作物を売って収入を得ないといけないから、無理をしてしまう。
当時のインタビュー動画(もちろん白黒テレビ)でも、「経済と感染症対策」のような構図が現れていたのが印象的でした。新型コロナじゃないですが、感染症が発覚したときの普遍的な状況なのかな、と。
歴史に学びました。
リンク
地方病との斗い-第一部 水腫脹満- 東京文映製作 - YouTube
地方病との斗い-第二部 治療と駆除- 東京文映制作 - YouTube
分かりやすいです。
※解剖してる画像とか、体内から虫が出る映像があるので、苦手な人は注意です。
語郎