有給医のライフハック記録

医師の語る人生最適化戦略

芽殖孤虫症【最悪の感染症】

(この記事に、グロ画像などは当然ありません。安心してください。)

 

僕はアゲハチョウを筆頭に、無類の昆虫好きです。小さいころから大好きで、成人しても嫌いになるどころか、どんどん好きになっています。

 

学生時代には、ほとんど「人の体」についての勉強ばかりでした。そのような生活のなかでも、唯一「虫の体」が登場する学問領域がありました。寄生虫です。この学問のなかでは、いろんな虫が登場します。とはいえ、その虫たちは日常生活でお目にかかれるわけではなく(そもそも病原体ですので)。

 

かなりマニアックな寄生虫学。この学問のなかには、寄生虫にまつわる、たくさんの奇妙な病気が存在します。

 

あまり沢山紹介するのもアレですので、奇妙中の奇妙、奇虫の王ともいえる「芽殖孤虫症」をご紹介しようと思います。

 

分かりやすく、かみ砕いて記録します。

 

 

・芽殖孤虫症???

かなりマニアアックな寄生虫感染症です。同僚や友人に聞いても、知っている人は皆無でした。「なんじゃ、そりゃ」といった反応が殆ど。

 

それもそのはず。確認したところ、学生向けの微生物学の教科書(標準微生物学・第11版)にも、記載がありません。専門的な寄生虫学の教科書に、軽く記載があった程度です。それも、小さく。もちろん医師国家試験にも登場しません。出題された日には、大ブーイングでしょう。

 

じつはですね・・・。この感染症について、詳しいことがまるで分からないのです。まったくもって、謎の病気なんです寄生虫症である、という点だけは事実であります。

 

くわえて、芽殖孤虫症を発症した場合、ほぼ救命できないのです。致死率が極めて高い、恐ろしい病気です。

 

 

・多少、分かっていること

「じゃあ、なんで、寄生虫だって分かるんじゃい?」って話ですよね。当然浮かんでくる疑問だと思います。ここからが、話のキモです。

 

じつは、寄生虫も一般の虫と同じように、生育にベストな環境があるのです。

 

僕が大好きなアゲハチョウですと、「ミカンの葉をたべ、サナギになり、成虫になる」というのが、一連の過程ですよね。

 

寄生虫も同じ。幼虫から成虫になるのを目指しています。ですが、その変態の過程で「予期しない環境」に幼虫が置かれると、暴走するんです。

 

勘がよい方は、もうお分かりかもしれません。この「予期しない環境」が、人の体内であったりするんです。場合によっては、猫とか犬の体かもしれない。こういった想定外の環境に置かれた寄生虫は、暴走します。これを、寄生虫学の単語で「幼虫移行症」といいます。この「幼虫移行症」では、寄生虫の幼虫体が、体内を動き回ります。皮膚にでたり、目にでたり。ちょっとグロテスクですが。

 

世界で、「何らか」の寄生虫症に侵された方を検査した結果、幼虫の特徴が一致していた。そのため、その幼虫によって生じる病気が「芽殖孤虫症」というわけです。

 

どのようなルートで人体に入ってしまうのか、分かりません。可能性の一つとして、蛇・カエルなどの「ゲテモノ食い」ではないか、とされています。詳しいことは、まったく分かりません。

 

 

 

・虫体が保管されている施設

ここまで書いてきましたが、2000年の時点で、全世界で14例の報告があります。日本では6例だそうです。(国立感染症研究所HP・わが国における条虫症の発生状況より)

 

実在した虫体については、目黒の寄生虫博物館に保管があります。ご興味がおありでしたら、一度のぞかれると良いでしょう。無料で入館できます。

 

 

語郎