有給医のライフハック記録

医師の語る人生最適化戦略

名著紹介 『影響力の武器』の要約と解釈

 

2021年10月に読了した書籍をご紹介します。知る人ぞ知る古典的名著『影響力の武器』を読みました。

 

これは名著。

 

大げさではなくて、現代を生きるための必読書だと考えます。心理学の学術書を一般層に向けて書いたような書籍であり、かなりボリューム感があります。読書の体力がないと最後まで読み切れないですが、それでも一読の価値があります。

 

『影響力の武器』

誠信書房 ロバート・B・チャルディーニ(著)、社会行動研究会(翻訳)

おススメ度:∞

 

タイトルからは内容がイメージしにくいですね。「何故、人は他人からの誘いに乗ってしまうのか」を心理学的に追求する内容です。マーケティング行動経済学、心理学の書籍と捉えることができますが、悪い言い方をすれば「騙しのテクニックの集大成」とも言えてしまう危険な本・・・。

 

しっかり熟読できれば、怪しい投資話や勧誘話、胡散臭いマーケティングに引っ掛からない人生を送れます。「コイツ、こういう心理導線を引いて、買わせようとしているんだな」って分かります。

 

どうしても気になる人は、自分で買うなり借りるなりして、読んでください(投げやり)。

 

読むのが面倒くさい人は、下を参照してください。

 

概要

現代は良くも悪くも情報過多の時代です。大量に押し寄せる情報を、吟味して行動するほどヒマじゃなかったりします。

 

そうなりますと、「まあ、こういう時には、こうするのが一番安全だよねー」みたいな暗黙のルールに乗っかるのが、コストパフォーマンスが良い思考術になりますよね。

 

およそ、その方法論で問題ないのですが、やっぱり世の中には「悪い人」も居て。人が引っ掛かりやすい心理状態を意図的に利用して、僕らを騙そうとするわけですわ。

 

ここからが本題で、その「引っ掛かりやすい心理状態」の引き金になる6つのシチュエーションがあります。以下、例を混ぜながら要約します。

 

6つのルール

6つの重要なルールです。これらがトリガーになってしまい、人の言うことを聞き入れやすい心理状態になってしまいます。

① 返報性:「施しを受けたら、お返ししたくなる」

義理人情ってやつでしょうか。普通のコミュニケーションでは問題ないのですが、「こちらを騙そうとする悪い人」から「そんなに欲しくもないもの」を無理やりもらっても、やっぱり「悪い人」相手にも人情を感じてしまうそうです。それで結果的に騙される状態になります。

② 一貫性:「自分の宣言を守りたい欲求」

自分が宣言したことについては、一貫してスジを通すべきという刷り込みがあります。

 

オウム真理教を例えに出します(別にここで教団を弾劾する意図はないです。例えとして分かりやすいので)。オウム真理教で出家するのには、高額なお布施(全財産を投げ打つ)が必要です。そして出家を自分で宣言します。それだけ高額なお布施を支払って、わざわざ出家すると宣言するのですから、ありていにいえば「引っ込みがつかなくなる」んですわ。こうなると、なかなか教団を抜けられません。しっかり「修行者」のキャラクターで居る必要があるというわけです。

 

あと、たとえば新築区分マンションとかね。圧倒的に高額で、まあローンを組んで買うわけで。買ったあとで調べて、あまり良くない情報が分かったとしても「俺のマンションは節税になるから、大丈夫なんだ!ローン組んで、踏み切って買ったんだ!!」となるわけよ。こうなると周りの注意を聞き入れません。

③ 社会的証明:「周りと同じことをしとけば、安全」

これは分かりやすいでしょう。よく分からないシチュエーションのとき、周りの人と同じ行動を取れば、大丈夫という刷り込みです。

 

これまた、オウム真理教を例えに出します(分かりやすいのでね)。オウム真理教の修行場の総本山は、山梨県上九一色村にありました。山のふもとの隔絶された環境にあり、おまけに周りは信者だらけ。こういう特殊な環境において、熱狂した様子で修行するのが「あるべき行動」と思い込み、没頭するわけです。どう見ても変わった方法(頭に電流を流す修行とか水をがぶ飲みする修行)にも違和感を感じなくなってしまうわけよ。

④ 好意:「好きな人の言うことには従ってしまう」

これも分かりやすいですね。「詐欺師」の身なりが意外と整っているのは、こんなところにあるのでしょうね。清潔な人には好感を持ちやすいですから。

⑤ 権威:「偉い人のいうことは正しいと思い込む」

社会的信用があったり、あるいは好ましい属性を持つ人の発言は、それだけで聞き入れやすいもの。「良い属性(有名人、美人)」と「普通の商品」がコマーシャルで連結すると、「普通の商品」までもが必要以上に理想的に見えてしまう。そんなイメージの連結も含まれます。

 

2020年の秋、「元Google出身の経営者」と嘘を吐き、権威の皮をかぶって、マーケティングしていた人がSNSで炎上しました。「経営者」という権威をうのみにしやすい人々の傾向が、うまく利用されたわけです。彼の本質は「役者」であって「経営者」ではないと。その辺りの本質を見極めないと、嘘の権威で振り回されてしまいます。

 

著者は書籍のなかで、「役者」を使う商法をdisりまくっていました。僕もそういったマーケティングは死ぬほど嫌いなので、共感できました。

⑥ 希少性:「レアなものは良いものである」

少ないもの、に価値を感じてしまうと。これも分かりやすいですね。「数量限定」とかのチラシで、人が殺到してしまう心理そのものです。

 

根本的な対策

相手(詐欺師とかマーケター)は、上記の6つの武器を熟知しております。僕らの感情を揺さぶるような仕掛けを短期間で次々と仕掛けてくるのです。

 

じゃあ僕らはどうすれば良いのか、と。

 

本文では色々な防御手法が紹介されますが、(僕が思うに)共通しているのは「自分の感情の揺れ動き」をモニターできるよう訓練すること。これが全てです。

 

僕らの側としては、詐欺師への個別的な対応は困難です。

 

たとえば、「自称Googleの人」が他にも沢山居たとして、そういった人々を個別にリストアップし、捕捉するのは物理的に無理です。自称アップルかも知れないし、自称マッキンゼーかもしれないし、自称ハーバード卒かもしれない。ここまでくると、個別の対応はナンセンスです。

 

僕らができる防衛ラインは「短時間に感情の揺れ動きがあったかどうか」を自覚する訓練をすることです。そして感情の原因が上記のどれに該当するか把握すること。

 

喜怒哀楽というか、感情のアップダウンを日常生活で意識する。

 

個人的見解

SNSとかで札束とかゴージャスな生活の画像とかを見ると(まあ怪しい人の発信でしょうが)、短期間で感情が動きますよね?

 

一枚の写真やら動画を見ただけで、そんなに感情が動くこと自体、不自然なわけで。要するに「煽られている」わけ。

 

その感情の動きというか、量的な感情の変化を捕捉できるようになりたいものです。

 

僕は現場の仕事で鍛えるように、よく言われていますが、なかなか、体得できません。

 

訓練あるのみ、です。

 

語郎