有給医のライフハック記録

医師の語る人生最適化戦略

コロナ禍でみた「やる気のある無能」のはなし。

 

 

やる気×能力 

なんだか口汚いタイトルになってしまい、申し訳ありません。うまいこと事実をまとめようと思ったのですが、なかなかしっくり来る表現がなく、あえて使わせて頂きました。

 

やる気の有無、能力の有無で人間は4通りに分かれると言います。

・やる気のある有能 → 前線を引っ張るのに向く

・やる気のある無能 → 暴走すると手に負えなくなる・・・・

・やる気のない有能 → 中枢での頭脳労働に向く

・やる気のない無能 → 駒になるタイプ

と、こんな具合にタイプと対応する適性があるのです。

 

「無能」とかいう汚い言葉は極力使いたくないし、基本は温厚なタイプの僕ですが、どうにも困った体験を去年していたので記録しようと思います。特定されないように、ぼやかして書きます。

 

 

コロナ禍での外来でのこと

ちょうど去年(2020年)の5月頃、新型コロナで外来部門が困った状態になっていました。何を困っていたのか、と言いますと。そりゃもちろん、感染しないようにするための機材(N95マスクやガウン)が少ないことは報道の如くです。それ以上に感染経路もその時点では不詳であり、対策のレベル感が掴めなかったのです。あまり知られていないことかも知れませんが「どのレベルで対策するのか」って、けっこう施設間で温度差があったのでした。今だから書けますけれど。

 

「がっつりと空気感染対策する必要がある」という人もいれば、「最低限の飛沫感染予防で十分。あとは換気」っていう人もいたのですよね。よーするに、診療のすべての場面において最高レベルの空気感染対策は機材の面で難しい、という物理的制約があったのです。ザルな部分も相当あったと思っています。

 

それに加えて実際の重篤度も、まだまだ未知数でした。やっぱり重篤になってしまう感染者の方もいて、みな不安でした。

 

 

本題

 

発熱と呼吸困難で搬送された方が、外来にいらっしゃいました。せき込みも強く、苦しそうでした。とはいえ、切迫した全身状態ではありませんでした。

 

んで、その方の補佐的な内科対応(とくに疼痛と不穏。あくまで補助チームとして)を外来から依頼されて、チーム関係者で向かったのでした。特段の緊急事態ではないため余裕があったら対応を、という程度でした。

 

その時点で新型コロナ感染は不明。PCR検査もしていませんでした。CTも未撮影。つまり全く未検査状態であり「新型コロナ感染を全否定できない状態」だったのです。そのため個室での隔離になっていました。感染を否定できていませんから、当然の対応と思います。

 

問題はここからで。「感染の検査判定を待ちましょう。さしあたり、カルテの情報を取り、今日の指示だけでも出し・・・」と僕が言いかけたところ。

 

 

ある「熱量」のある看護師さんが、一人で個室に突っ込んで行きました。しかもゴーグルやN95マスクもせず。足軽みたいな格好で行ってしまったのでした。あっけにとられて外で呆然としている僕らに、部屋の中へ入るよう促すジェスチャーまでしています。

 

「あ、やべぇ・・・・」。あとで分かったのですが、後輩の研修医を含む周りの人らも同じような気持ちをもっていたとのことでした。ちなみに看護師さんはすごく優しい人で、人間関係としては問題ないのですが。

 

 

状況把握力と冷静さが大事

いや「熱量」は素晴らしいものですよ。そこは否定しない。

 

でもね。こういったご時世の、こういった状態なもんですから、やっぱりそこはバランス感覚をもって欲しいのですよね。パンデミックなんて、そう滅多にあることじゃないですから。平時の医療と社会的緊急事態というのを、切り分けるべきで。そういう瞬発力というか、状況把握力が重要。

 

このケースにおいては、一呼吸おいて後で行けばよいでしょう。部屋に突っ込む前に、主治医(全身管理の最終責任者)に状況を確認できる程度の時間的猶予はあります。カルテでの確認で、僕らとしての最低限の協力はできるハズで。どうにもそういった思考回路がないようでした。

 

 

補足

結果的には、その方は新型コロナ感染はしていませんでした。まあ結果オーライ、でしたけれど。また感染者が増えている今の状況では、もっと慎重になるべきだな、と。

 

にしても、総合的な思考力といいますか、推察力といいますか。こういうのって、後天的に身につけられるものなのでしょうかね。受験勉強みたいな、叩き込みで身につく内容なのかしら。

 

投資詐欺かもしれないと推理する力とか、とっさの状況判断の力とか。このあたりの義務教育がすっぽ抜けている気がするのですが。すっごく大事な力だと僕は思うのでした。

 

 

語郎